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東京地方裁判所 平成元年(ワ)754号 判決

原告

鶴飼政次

ほか一名

被告

牛込正城

ほか一名

主文

一  被告らは、各自原告らに対し、それぞれ七二六万五四〇一円及びこれらに対する昭和六一年二月四日より各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告らそれぞれに対し、一三二四万五六五八円及びこれらに対する昭和六一年二月四日より各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故発生(以下、この事故を「本件事故」という。)

(1) 日時 昭和六一年二月四日午後八時二五分ころ

(2) 場所 東京都足立区六月一丁目二三番先交差点(以下、「本件交差点」という。)

(3) 加害車 普通乗用自動車(足立五八さ九六五一)

右運転者 被告正城

(4) 被害車 自動二輪車(足立を四五六五)

右運転者 鶴飼政行

(5) 態様 本件交差点を直進する被害車と対向して右折する加害車との衝突

2  責任原因

(1) 被告光子は加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

(2) 被告正城は、本件交差点に進入して右折しようとするときは、前方を注意し、直進してくる車両の有無を確認し、直進してくる車両のあるときは先に通行させるべきであるのに、これを怠り、漫然と右折進行した結果、本件事故を発生させた。

3  原告らの損害

(1) 政行の逸失利益

〈1〉 政行は、本件事故により死亡したが、同人は昭和四三年一二月二日生まれで本件事故当時満一七歳であつたので、その逸失利益は三三一八万三〇一五円である。

〈2〉 原告らは政行の両親であり、かつ相続人であつて、各二分の一の割合により同人の権利を相続した。

(2) 原告らの損害

〈1〉 葬儀費 九〇万〇〇〇〇円

〈2〉 慰謝料 一五〇〇万〇〇〇〇円

(3) 損害の填補 二五〇〇万〇〇〇〇円

(4) 弁護士費用 二四〇万八三〇一円

4  よつて、原告らは、被告らに対し、自賠法三条及び民法七〇九条に基づいてそれぞれ各自一三二四万五六五八円及びこれに対する本件事故の日である昭和六一年二月四日から完済まで民事法定利率五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2(1)の事実は認める。(2)の事実のうち、加害車は、本件交差点に進入して右折中に本件事故が発生したことは認めるが、その余は否認し、争う。

3  同3(1)の事実のうち、〈1〉の政行が死亡したことは認めるがその余は争う。〈2〉の事実は知らない。

4  同3(2)の事実は知らないし、法律上の主張は争う。

5  同3(3)は認める。

6  同3(4)は争う。

三  抗弁

被告正城は対面信号の青色矢印の表示にしたがつて右折を開始したところ、対面信号が赤色を表示しているにもかかわらず、被害車がその表示を無視して本件交差点に侵入したため加害車の左側面に衝突したのが本件事故である。

従つて、政行にも相当の過失があり、その割合は九割を下らない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認し、法律上の主張は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるので、これを引用する。

理由

一  請求の原因1について

請求の原因1の事実は当事者間に争いはない。

二  請求の原因2について

1  請求の原因2(1)の事実は当事者間に争いはない。従つて、被告光子は自賠法三条により、後記損害を賠償する責任がある。

2  請求の原因2(2)の事実について

(1)  加害車が、本件交差点に進入して右折中に本件事故が発生したことは当事者間に争いがなく、また前記事実と成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、証人渡辺智子、同提橋勝世の各証言、被告正城本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

〈1〉 本件交差点は南北に走る国道四号線(通称日光街道)と東西に走る道路とが交差している市街地にあつて、本件交差点の南側(国道四号線の千住方面)は幅員四・四メートルの横断歩道が白色ペイントで表示され、その南側は車道幅員二〇・五メートルで、道路中央に白色ペイントで幅員三・二メートルの誘導帯(ゼブラゾーン)が表示され、その両側はいずれも白色ペイントで二車線に表示されており、その両側は縁石及びガードパイプによつて歩道と区切られており、車道と歩道との間付近で道路工事が行われていたこと、白色ペイントはいずれも鮮明であること。

他方、本件交差点の北側(国道四号線の草加方面)は幅員四・四二メートルの横断歩道が白色ペイントで表示され、その北側は車道幅員一八・六メートルで片側二車線となつていて白色ペイントで表示されているが、本件交差点付近では南行車線に右折のための車線が設けられているため、センターラインは曲線となつていること、そして、本件交差点内には右折の車両誘導帯が路面上に白色ペイントで表示されていること、道路の両側は縁石及びガードパイプによつて歩道と区切られており、車道と歩道との間付近で道路工事が行われていたこと、白色ペイントはいずれも鮮明であること。

また、本件交差点の西側は幅員二・三三メートルの横断歩道が白色ペイントで表示され、その西側は幅員一〇・〇メートルの西新井方向に向かつた道路で、両側にガードパイプで歩道が設けられているが、センターラインは表示されていないこと。本件交差点の東側は幅員二・五メートルの東検物通り方向にいたる道路であること。

いずれの道路もアスフアルトで舗装されており、平坦で乾燥していたこと。

国道四号線の本件交差点付近の交通規制は、最高速度時速五〇キロメートル、終日駐車禁止、転回禁止、歩行者横断禁止などとなつていること。

本件交差点は集中制御式信号機によつて規制されており、本件事故時の国道四号線の車両用信号についてみると、青色六四秒、黄色四秒を表示した後、四二秒間の赤色表示となるが、草加方面から本件交差点にいたり右折する車両用には右折を表示する青色矢印信号は赤色表示となると同時に五秒間点灯すること。

〈2〉 政行は渡辺智子を同乗させて、被害車を運転して国道四号線を自宅から草加方面に向けて出発し、六月町の歩道橋の信号で一旦停車し、その後発進し、時速約六〇キロメートルを超える速さで第二車線を走行して本件交差点にいたつたこと、対向右折する加害車を発見し急ブレーキをかけ、ハンドルを左に切つたが、二五・五メートル余りのスリツプ痕一条(但し衝突現場付近では二条となつている。)を残して加害車の左側面に衝突したこと。

〈3〉 被告正城は加害車を運転して草加方面から本件交差点に右折の合図をしていたり、横断歩道の手前で一旦停車し、本件交差点に設置されている信号機が青色を表示していたので右折誘導帯に従つて本件交差点内に侵入して停車し、その後発進して本件事故となつたこと。

(2)  ところで、被告らは本件事故には右折の青矢印信号が出ており、従つて、本件交差点での被害車進行方向の信号は赤色表示であつた旨主張するので、以下検討する。

前記認定事実、証人渡辺智子の証言と弁論の全趣旨によると、政行は六月町の歩道橋の信号で一旦停車し、その後発進し、時速約六〇キロメートルを超える速さで本件交差点付近にいたつたこと、本件交差点に進入する前に政行が確認したときの信号は青色を表示しており、そのまま本件交差点に進入しようとしたものと認めることが相当である。

被告正城は本人尋問において、加害車を運転して右折誘導帯に従つて本件交差点に侵入して停車したが、信号は青色を表示していたがそのまま停車し、右折の青矢印信号が出てから発進したと供述するが、その停車時間については、四、五秒とも一分とも、二、三〇秒とも供述していること、青色信号で本件交差点に侵入していながらも青色矢印の表示を待つて右折したとする理由につき、右折時には対向車線に停車車両があつたと述べる一方、このような車両の存在は覚えていないとも述べており、しかも他に述べる青色矢印の表示を待つて右折したとする理由は容易には首肯し難いことからすると、その供述は直ちには措信できない。

なお、加害車に同乗していた提橋勝世は、その証人尋問において、草加方面から進行して来て本件交差点で停車したときは青色信号であつたけれども、その後は信号機を見ていないし、その間何秒位停車していたか分からない旨証言していること、また、前掲乙第一号証の二によると、本件事故当時被害車の後方を走行していた田中明雄が本件交差点の信号が赤色であることを確認したのは本件事故を目撃して三〇・三〇メートル進行した地点であるところ、田中明雄が乗車していた車両の車種は明確ではないが、仮に第一種原動機付自転車であると推認すれば、被害車は青信号で本件交差点に進入した可能性も否定できないのである。

そうすると、他に証拠のない本件では、被告らの主張は採用できない。

(3)  以上によると、被告正城には、本件交差点に進入して青色信号に従つて、右折しようとしたのであるから、直進してくる車両の有無を確認するとともに、直進してくる車両を発見したときはその進行を妨害しないように進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、前方を十分確認しないまま漫然と右折進行した結果、本件事故を発生させたものと認めることが相当である。従つて被告正城は民法七〇九条により、後記損害を賠償する責任がある。

三  請求の原因3について

(1)  政行の逸失利益 三七六一万五四三五円

〈1〉  政行が本件事故により死亡したことは当事者間に争いはなく、また、成立に争いのない甲第二ないし第四号証と弁論の全趣旨によると、政行は昭和四三年一二月二日生まれで本件事故当時満一七歳の健康な男子であつて、本件事故に遭わなければ満一八歳から満六七歳までの間稼働することができ、その間の逸失利益は昭和六一年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の男子全年齢平均賃金である四三四万七六〇〇円を基礎とし、生活費の割合を五割とし、ライプニッツ式により年五分の割合による中間利息を控除して事故時の現価を求めると、三七六一万五四三五円(一円未満切り捨て。以下同じ。)となる。

〈2〉  前記甲第四号証と弁論の全趣旨によると、政行の相続人は原告ら両名であることを認めることができ、その相続分は各二分の一であるから、原告らは政行の逸失利益を一八八〇万七七一七円ずつ相続した。

(2)  原告らの固有の損害

〈1〉  葬儀費 一〇〇万〇〇〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第五ないし第九号証と弁論の全趣旨によると、原告らは政行の葬儀を挙行し、相当額を支出したものと認められるところ、本件事故と相当因果関係の認められる葬儀費は原告らそれぞれにつき五〇万円である。

〈2〉  慰謝料 一六〇〇万〇〇〇〇円

本件事故の態様、政行のほぼ即死に近い状況での死亡、その他本件審理に現れた一切の事情を総合して考慮すると、原告らの受けた精神的苦痛を慰謝するには原告らそれぞれにつき八〇〇万円をもつてすることが相当である。

(3)  損害合計

以上の損害額合計では、原告らそれぞれ二七三〇万七七一七円となる。

四  過失相殺

本件事故は、既に認定したとおり被告正城が右折するに当り十分な注意を払わなかつたことにより発生したものであるが、政行にも交差点を通過するに当り注意を欠き、しかも制限速度を一〇キロメートル以上超えていたことも認められるのであり、これらの点を考慮すると、原告らの損害の三割を減ずることが相当である。従つて、原告らの損害は各一九一一万五四〇一円となる。

五  損害の填補 二五〇〇万〇〇〇〇円

請求の原因3(3)の事実は当事者間に争いはない。従つて、原告らが相続分に従つて右金員を損害に填補すると、残存する損害額は六六一万五四〇一円となる。

六  弁護士費用 一三〇万〇〇〇〇円

弁論の全趣旨によると、原告は、本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人に委任し相当額の報酬を支払うことを約したことを認めることができるところ、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、各六五万円と認めることが相当である。

五  結論

以上のとおり、原告らの被告らに対する本件請求は、それぞれ七二六万五四〇一円及びこれらに対する本件不法行為の日である昭和六一年二月四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので認容することとし、その余は失当であるので棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言に付き民事訴訟法一九六条をそれぞれ適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 長久保守夫)

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